ヴァンと共に、誓った復讐
尽きる事無い憎しみは、まだまだ深く根付いている
幼かった時、見渡せば赤い色をした海の中に囚われ、取り残された俺
何もかもが終わったあと、気付けばそこに居たらしい
らしいというのはその時のことを俺は何も、覚えてなどいなかったからだ
・・・・何も覚えていない俺は、ただ呆然と座り込んでいたのだそうだ
死体の積上げられた、部屋で
その後ペールに聞かされたのは、優しかった母親も、尊敬していた父親も、しっかりしていた姉上も、優しかったメイドも
俺の大切な何もかもが、ある男に奪われ殺されたという事
何も覚えていないからこその喪失感
ついさっきまで傍に在った温もりの行方は捜したとしても一生、見つかりはしない
そして、誓った復讐
それからの俺は、死に物狂いで強くなるために頑張った
全てはこの胸に灯る火種の為
そのかいあってか、俺は力をつけ今ではヴァン率いる六神将という立場まで登りつめたのだ
そしてやっと!!
この俺の火種が消える瞬間がやってきた
復讐の手立てが整ったからだ
やっと、念願叶った時がくる
震える心を抑えるようにして、息を吸う
(この興奮して、叫びだしたい気持ちを宥めるのにどれ程の労力が使われているか、誰にも判らないだろうけれど漸く、その時が来た---------)
何かから、誰かを守るようにして固められた頑丈な鉄格子
誰かから、何かを隠すようにして聳え立つ、白い壁
入り込む隙など、無いように思えたけれど
それは、長い年月の間に作られた屋敷の地図によって意味をなくす
完璧なものなど、無い。必ず、何処かに綻びが出るのだから
屋敷の地図は、完璧に頭の中に叩き込まれている。そうして、するりと忍び込んだ俺は、ずっと決めていた復讐の手段を実行する為に離れたところに位置する部屋に向かう
俺と、同じ思いを-----------あの男に
そう、俺が体験したように大切な「何か」を奪ってしまえばいい
それは到底考える事も出来ない痛みだ
その想像も出来ない程の痛みを伴う、喪失する苦しみを、与えてやる
離れた場所に立てられた、部屋はまるで
・・・・誰かを守るように、けれど誰かを差し出すかのように建っていた
剣を取り出し、大きく高い位置に作られ用心すらしていないのだろう開かれた窓を難もなく越えると
赤い髪をした子供がまるで判っていたと言わんばかりの表情を浮かべて侵入者である俺を見ていた
「・・・・来ちゃったんだ」
まるで意味の判らない言葉を連ねて、俺に歩み寄る赤毛の子供
「初めまして。俺、ルークって言うんだ」
近付いてきたと思ったら、この子供は驚いた事に俺に抱きついてきた
「・・・・ごめんね。ごめん。でも、嬉しいな。俺」
抜き身の剣を持って入ってきた俺が何を思っているのか位判っているだろうに、なんの警戒もせずに抱きついて、ましてや嬉しいだなんて言う
抱きついて来た子供の赤い髪を引っ張って、真っ白で皺一つ無いベッドへと倒し、圧し掛かる
凪いだその目に、狂喜が浮かんでいるように思えるのはどうしてか
「おまえをいまから、殺す」
知ってる。と小さく零して、殺される事を待っているようにも見える眼下で俺を見上げる子供
「痛いのはヤなんだ・・・一瞬で殺ってくれる?お願い」
綺麗に笑う、子供は俺の顔に手を伸ばして、ゆるりと頬を撫でた
「あぁ、そうだな。それくらいは聞いてやるよ」そうして笑った子供に返すように、俺も笑み湛えた
「えぇっと、最期に。コレを渡しとく。気が向いたらでもいいから読んでくれよ。で、あんたの名前、教えてくれないか?」といいながら、ポケットに入れてあったのだろう日記・・・なのだろう物を俺に渡す。俺はそれを黙って受け取った
「注文の多い子供だな・・・・・・名は、ガイラルディア。皆にはガイと呼ばれている。・・・・さぁもうサヨナラだ。」
「良い夢を、ルーク。」
「おやすみなさい、ガイ」
にこりと笑って目を瞑った子供に、光る鈍い色をしたため振りかざされた剣
ずぶりと、入り込んでいく剣先が沈んで----------------
白い白いシーツに広がっていく赤い染み
それは、まるであの時の光景のようにシーツの海を赤色に変えていく
どうしてだろう。判らない感情が浮かび上がる。
嬉しいのだろうか、それとも寂しいのだろうか。・・・・わからない
復讐を遂げる事が出来て、嬉しいのか
それとも、復讐を遂げてしまった事が寂しいのか
刺さった剣を抜き、何も無かったかのように窓から身を翻す
出ていく時に、ちらりと盗み見た子供の顔はどこまでも安らかだった
俺を殺す人へ
俺、知ってたんだ。死ぬ事。
父上がした事でお前が復讐しにやってくるって知ってたんだ。・・・日にちまでは知らないけど
あー、えぇっと。そうだ俺の話していいか?聞いて欲しかったんだずっと。
俺は殺されるために生きてたんだ。
だから、あの部屋なんだよ。おかしいと思っただろう?離れた部屋に子供が一人だなんて。
公爵だとかいうのは、敵も多いらしい・・・のに離れにぽつんって俺一人だ。
それには理由があってさ。
実は、俺双子なんだよ。アッシュって双子の兄が居て・・・預言にお前がやってくるって詠まれてたみたいなんだ。そして子供が殺されるって。
・・・まぁそんな事で俺は選ばれた。双子の弟だった俺が。
ようは、預言に詠まれていた殺人予告。死ぬ事は決定。時期はわからない。
でも唯一判っていたことは、殺されるのは子供だという事。
そこに上手い事に双子が生まれてきた。一人は跡継ぎに、一人は生贄にって事だ
だから、俺はずっと一人だったんだ。俺は「死ぬ者」だから一人だった。
誰とも会うことも出来なかった。母親にさえも会えないんだぜ?酷いだろう?
そして父親に聞かされたんだ・・・死ぬって事を。確か7歳の時だったかな。
「名誉の死だと思え」ってさ。残酷だろう?でも、どうしてこんなところに閉じ込められて誰にも会えないのか納得した。何も思うところが無いっていったら嘘だよ。
母親に会いたいし、父親にも・・・・そりゃ会いたい。ほら、一応父親だから。
双子の兄っていうアッシュにも会ってみたい。
でも、俺殺されるからさ、誰も会ってくれないんだ。
もしかしたら、兄とか母親は俺のことすら知らないんじゃないかな。
あの人のことだから、きっと生まれた時に死んだとか言ってるっぽい・・・・あー話が逸れたな。
死ぬって判ってる奴に愛情を注ぐ奴なんて居ないんだ。
居なくなるって判ってて、わざわざ・・・・・・ってあんたに言っても意味無いな。
ずっとずっと、必要とされたかったんだ。俺。
誰も俺を見てくれないから、誰も俺を偉いって褒めてくれないし。抱きしめてもくれない。
誰もこの離れに近付くことは許されない。知ってるのは数少ない俺付きのメイドとか・・・・えーと他にもまだ何人もいると思うけど。皆、死ぬ奴って知ってるから、そっけないってねぇの。
・・・・で、必要として貰いたかったからさ、こう思うことにしたんだ。
俺が死んだら、兄のアッシュが助かる。俺の命のお陰で、あいつは生きるんだって。誰も悲しまないですむのは、居ない存在として扱われてる俺のおかげだって。
でもなぁ・・・・きついもんだぜ?死ぬって判ってて、生きてるのって辛いんだ。判ってても、感情がついていかない。いつ殺しにくるんだろう。痛いのか、すぐに死ねるだろうか。嬲り殺しにされるのか・・・・考えてもその時にしか判らないのに、ずっと一日中考えて。
考えなくなったのはいつだったかな。わかんないや。
でも、一つ気付いた事があったんだ。俺必要とされてるって判ったんだ
一つだけ、一人だけに。
それはな、あんたなんだ。
だって、あんた復讐する為に俺を殺すんだろう?
あんたは復讐の手段に俺を選んだんだ。俺を殺す事が必要なことだった
嬉しかったなぁ・・・・殺されるって判ってても嬉しかった。
必要とされて。なんてゆうか、悲しいけど、めちゃくちゃ嬉しかった。
だから、最期にはあんたの名前を呼んで逝きたいなって思ってるんだ。・・・いや、思ってたんだ。か?
これをあんたがもし受け取ってくれたり、読んでくれたりしてたら俺死んでるし。
あんたには判るだろう?
・・・あんたの名前、おれ聞けたのかな・・・聞けるといいな。
だって俺、ずっとあんたを待ってたんだから
ありがとう。俺を殺すって選んでくれて・・・・でも、ごめんな
俺を殺しても、あの人は悲しまないんだ
ごめん。ごめん。あんたは復讐の為に俺を選んだのに、あの人は悲しんではくれないんだ。
ごめん
俺が死んでも・・・・誰も悲しんでくれない。
俺を選んでくれたのに、必要としてくれたのに
そんなあんたの為になることなんて、一つもしてあげれなかった
ごめん。
ごめん。殺してくれて・・・ありがとう。
ルーク・フォン・ファブレ
--------------------------------------------------------なんだ、これ
あの子供から最期に渡された日記をどうしてか読む気になった俺は、書いてあった真実に愕然とする
だから、あの子供は俺に嬉しいだなんて言ったのか!!
そして、最期に俺の名を--------呼んだ
なんて、世界だ。預言に詠まれていたからと、子供を差し出すなんて。
そしてあの子供、ルークは自分が殺されることを望んでいただなんて・・・・いや、望まざる得なかったんだろう。
どうしてだ、どうして、こんなに胸が痛い。過ぎる、胸の痛みは一体なんだ
預言に詠まれたからと死を定められたルーク、預言に詠まれたとおりにルークを殺した俺
虚しい、とても。
俺が望んだ復讐とは、何だったのか
それは、あの男に同じ想いを与える為だったはずなのに・・・!
過ぎるのは虚しさと、途方も無い痛み
ルークの呟いた「ごめん」という言葉が繰り返し流れる度に、胸の中が引き攣れるみたいに痛む
殺した俺へ「ありがとう」だなんて
殺した俺に「ごめん」だなんて
囚われた僕と君
メモ
いやぁ・・・長い。これ小話じゃない。
最初はアッシュが存在しないルークだけが(アッシュじゃないよ)生まれたって話だったんです。
でも、「あぁ矛盾が」みたいなので修正でアッシュも存在しているというのになりました。
とにかく、ガイさま華麗にどん底なお話です。めっちゃ捏造の、死ネタ・・・(救われない)
もし、預言が違うものだったらというお話です。
六神将ガイを書こうと、思い至って出来上がったら、こんなんなっちゃった(殴)
ガイさまの復讐は遂げられましたが、結局残ったものは、何もなくてただ、じわりと滲むように後悔と痛みだけが。たんまりこんもり残りましたな、あいたーな話です。えぇ。
でも、すんごい楽しく書けました。このお話。やっぱしシリアス大好き(通り越してる気もするけども)
多分こっちを見てる人は少ないだろうから、またHPに上げます。
コメントくれたら飛び上がって喜びます。
ろーず
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